変化。


「最近、仲良いんじゃないの?」
 唐突に前の席に座る女が教科書を持ちながらこちらを振り向いて言った。
「なんだ? やきもち?」
 半分眠り掛けていた俺の頭は半分覚醒したまま言葉を紡ぐ。
 今は自習の時間だった。自習課題はあったが当然そんなものをやる気にならない俺は眠りを貪り続けていた。
「なんで男相手に妬かなきゃならないのよ。んなことよりも、中野の持ち味は掴めた?」
 「んなこと」なのか。俺の存在ってそんなものか?
「ん? あぁ、そうだなぁ。俺がさっぱり塩味なら……」
「だから塩味はさっぱりしてないって」
「みそ味ってとこか?」
「もしかしてラーメンに例えてるわけ?」
 女が怪訝な表情で問うてきた。
「ラーメン以外に何があるんだ。みそ味ってのはじっくりコトコト煮込みました。って感じだなぁ。色々考えてる人間だ、あいつは」
「ふーん。いい影響受けてるわね」
 俺はその言葉に眉寝を寄せた。
「あんた、私以外に友だちいないから。言ってみて正解だったわ」
「……俺はお前の手のひらの上で踊らせられてたわけか」
「ふっふっふ。ようやく気付いたようね。前あんたが言った言葉が気になってね。
『俺は今のままで十分なんだ』って。人間「もうこのままでいい、そう思った時が一番ダメな時」なんだって何かの本に書いてたわ」
 俺は口が悪く背もでかいから人から敬遠されることがよくある。そんな俺をコイツはよく見抜いていた。
「……お前にはかなわねぇな」
 ぼそりと呟くと相手は勝ち誇った笑みを見せた。
「あんたのことをよく見てるからね」
 不意打ちだった。
「あのー。お取り込み中悪いんだけど」
 振り向くと中野が立っていた。俺は気まずい気持ちでそちらを振り向いた。
「……いつからそこにいた?」
「1分前かな。僕クラス委員だから、自習の紙集めたいんだけど?」
 そう言う中野に俺はプリントを押し付けた。もちろん白紙だ。
 中野はそれを分かっているクセにそれをとがめなかった。
「顔が真っ赤だね」
 変わりにそんな言葉を残して去っていった。
 絶対に仕返ししてやる。そう心に誓った。