「何でこの世にテストなんてものがあるんだ」
夕日が差し込む教室で俺は一人ごちた。
目の前には赤点を取ったものだけが、唯一目にすることが出来る補習の紙。
「くそっ! テストでわからなかったもんが、今わかるわけねぇだろ! 分からなかったから赤点なんだっつーの」
補習があると聞いてから少し時間があったことを棚に上げて唸った。
椅子に勢いよくもたれ掛かり伸びをした。
その瞬間、教室のドアが開いた。こけそうになったのを必死でこらえる。
「……なんだ。中野かよ」
ドアの傍に立つ人物を認めて声をかける。
相手はあからさまに顔を顰めた。
「……何やってるわけ? って、聞くまでもないか」
中野はこちらの机に広げられている紙を見るとすぐに得心したようだった。自分の机の中から本を取り出している。帰って読みでもするのだろうか。
「なんだ? 家に帰ってまで本読むのか? もっと遊べよ、あ・そ・べ!」
俺は一人でいた鬱憤を晴らす為に早々に退散しようとしている中野に声をかけた。迷惑そうな顔で振り返り相手は口を開く。
「そんなことばっかり言ってるから、そういう結果になるんだろ?」
「うっ。ごもっともで……」
痛いところを突かれた。
「何でテスト勉強しないわけ?」
「何でテスト勉強するんだ?」
相手は少し驚いた顔をしたが、すぐに答えを返してきた。
「目標があるから。人間、目標を持つと頑張れるもんだよ。テスト勉強は、まぁその土台になる部分かな。土台をしっかり作らなきゃ、中身も何もないものになってしまう」
「なるほどな。……一階がなくて、二階建ての家が作れないみたいなもんか」
「……まぁ、間違ってはないと思うけど」
こちらの返答に相手は少し顔を顰めて答えてきた。結構律儀なやつだと思った。
「嫌な顔しながらもよく俺と話してくれるよな、お前」
「……前に君が言ったんじゃないか。「気になった」からだって。僕も今そう思っただけだ。深い意味はないよ」
そう言うと、本を鞄にしまいこみ、こちらの机の方へと近づいてきた。
前の机に後ろ向きで座ると、
「で? どこが引っかかってるわけ?」
こちらの答案用紙をのぞき、相手は口を開いた。
自分が言った台詞を聞きなおすのは結構恥ずかしいものだ、そう思った。
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