「なぁ、中野ってなんでいつも本ばっか読んでんだ?」
後ろから声を掛けると相手は驚いたようにこちらを振り返った。
そして次に怪訝な顔。まぁ、当たり前と言えば当たり前の反応だった。
「……何で、そんなこと聞くんだ? 僕が何しようと僕の勝手だと思うんだけど」
「んー、いや、ただ単にお前の持ち味をだな――いや、まぁ何でかな、と気になっただけだ」
首を傾げてこちらも相手に答を返す。すると相手は少し驚いた顔を見せた。
「なんでそんな顔するんだ?」
俺が問うと、中野は視線をこちらから外し、
「いや、僕のことが気になる人間がいるなんて思わなかったから」
「んぁ? 人のことが気にならない人間なんていねぇだろ。絶対に誰か一人は自分のこと見てるってな。
まぁ、それが綺麗な感情か汚い感情かはわかんねぇが。現に俺以外にもいるぜ?」
そう言って俺は、窓の席に座って、教科書を広げている女を指差した。
中野は俺の指の先を辿る。その相手を認めたようだった。
「知ってるか、あいつは今『150万から経営できる本屋』という本を読んでいる。教科書のカバーはフェイクだ」
ニヤリと笑って言って見せた。すると相手はふっとなんとも言えない笑みを零した。普段は見せないそんな顔を。
「僕が本を読んでるわけ、ね……。『八駒の隙を過ぐるが如し』。そんな中国の言葉が僕の指針だからかな」
「『ハックノゲキヲスグルガゴトシ』……?」
「『人生は、白馬が走り過ぎるのを垣間見るように短いものである』って意味だよ。今やりたいことをやってるだけだ」
「へぇ、そうか。人生はあっちゅーまってことか。じゃぁもっと人とかかわってみればいいんじゃねぇか? きっと他にも面白いことが見つかるぜ」
こちらの言葉に相手は一瞬不思議そうな顔をしたが、
「……気が向いたらね」
そう言うと、再び本を読み始めた。
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